リフォームをして得たもの
住み慣れたマンションを、これから先もずっと安心して住み続けられるように、
給排水配管の更新や浴室、キッチン、洗面・トイレなどの設備機器の交換を弊社にご相談くだ
さったK様。
工事した当時は70代前半でいらっしゃいました。ご主人様と社会人の息子さんと3人でお住
まいでした。
以前一度、リフォームをされたことがあり、その経験を踏まえてのご相談だったので、やりた
いことが比較的はっきりしておられました。
そのひとつが、ご夫妻の寝室を分けること、でした。
以前のリフォームで洋室にしたリビングの隣の和室を再び和室に戻して奥様の寝室に、
ふたつある洋室のひとつをご主人様の寝室に、完全な夫婦別室を目指されたのです。
最初にお話をいただいてから、K様とはじっくり時間をかけてお打合せを重ねました。
実はご主人様がリフォーム工事をすることに賛成していなかったのです。
無口で、普段はにこりともしないタイプのご主人様。
本棚などを奥様がちょっと触って収納してあるものの場所が違っただけで、ご立腹されるとの
こと。
室内が大きく変わる計画だと知ったら、強い抵抗感を示されるのは間違いありません。
ご主人様が納得していない工事を、いつどうやって敢行すればよいのか・・・
奥様の作戦はこうでした。
毎年夏にハワイのリゾートマンションに長期滞在するので、工事期間はそのタイミング。
ご主人様には大々的なリフォームだということは明かさず、内装工事程度の軽リフォームとだ
け伝えておく。
しかしそんなことをしてもしご主人様が激高されたら・・・
奥様はおっしゃいました。
「この家の名義は私なのよ。」
ならば、所有者様の好きにしてかまわないはず!
私たちの気持ちも、ようやく固まりました。 ハワイに発たれる前にすべての仕様決めをし、
出発後、家財をコンテナに預けるため引っ越し業者を入れ、およそ1か月にわたる工事がス
タートしたのでした。
ご夫妻が帰宅される日。私たちはご夫妻をお住まいでお迎えすることになりました。
私たちの緊張も最大級に・・・玄関ドアを開けて様子の変わった室内を見たら、ご主人様はど
んな反応を見せるかわかりません。
果たして・・・
「おかえりなさいませ!」
緊張感の混じった笑顔でご夫妻をお迎えしました。
コンテナに預けていた家財が戻った状態の室内はピカピカだけれどやや雑然としていたかもし
れません。
ご主人様の表情は・・・
やはりこわばっているように感じました。奥様に怒りの感情を向けられたらどうしよう・・・
緊張が走ります。
ここまで家の中が変化しているとはご主人様は露ほどにも思っていらっしゃらなかったわけで
すから。
一方、奥様は大喜びです。
家中を歩き回って仕上がりを確かめ、満足げな笑顔を浮かべられました。
私たちはひと通り各所の取り扱い説明をし、複雑な心境のままK様邸をあとにしました。
工事後、時は流れ・・・
何度かK様邸に伺うことがありましたが、ご夫妻の関係に不思議な変化が生まれているのを私
たちは見ることになりました。
奥様はご自分の望みが叶い、気持ちがリフレッシュしたのでしょう、長年大切にしてきたダイ
ニングチェアの座面の張替えをされたり、英国のアンティーク家具をリビングの片隅にとご購
入されるなど、いっそうインテリアを楽しまれているご様子。
そして、リビングのソファで新聞を広げているご主人様は、柔らかい笑顔を浮かべ、時に奥様
と軽やかなおしゃべりをされていたのです。
以前、私たちが見ていた憮然としたご主人様の表情とはあきらかに違う、とても柔和で優しい
雰囲気がありました。
家の中の空気が、リフォーム前と完全に違っていました。
毅然とした態度で自分の持ち家をリフォームされた奥様。
リフォームから数年経過後、奥様はおっしゃいます。
「あのとき、計画を実行してほんとうによかった。今はあれからまた年を重ね、荷物の整理な
どとてもおっくうで同じことをやれと言われても無理だと思う。思い切ってやって、ほんとう
によかったわ。」
室内が思い通りになったこと以上に、ご夫妻のあいだに流れる空気がやさしく思いやりに満
ち、笑顔を向けあうまでになったこと・・・おふたりが手に入れたものはとても大切で大きな
ものだったのだと感じました。